西日本支部第64回例会

※第63回例会については後日ご案内いたします。

※非会員の方で参加をご希望される方は事務局までメールにてお問い合わせください。

2025年7月26日(土)14:00-17:20
ハイブリッド方式
対面:九州大学大橋キャンパス2階322教室
例会担当:西田紘子(九州大学)
司会:小寺未知留(立命館大学)
オンライン:申込者に後日ZoomのURLをお送りします


参加申込:
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSe4Y5seS89hFpFEinx5umAskAZOkbjdG0fouP7NbltsXqfxkw/viewform?usp=preview

申込締切:2025年7月25日(金)24時

【修論発表】
14:00-14:30(発表20分、質疑10分)
(1)貝田かなえ(関西学院大学)「明治期における⽉琴の流⾏とマンドリン受容̶̶四竈訥治による邦楽改良の主張」

発表要旨
 本発表は修⼠論⽂をもとに、明治期に⽇本へ流⼊し急速に普及したマンドリンの受容を明清楽の流⾏になぞらえることで、⻄洋⾳楽受容を再検討するものである。
 先⾏研究では、⻄洋⾳楽の導⼊は近代化に利⽤されたと語られ、マンドリンに⾔及するものはなかった。発表者は、明治期に流⾏していた⽉琴に代表される明清楽の普及が⼟台となり、マンドリンが受け⼊れられたと考えた。両者に親和性が認められることは、当時の雑誌の記述や絵画の描写から明らかである。
 さらに、マンドリンを初演した四竈は『⾳樂雜誌』において「邦楽を改良するために⻄洋⾳楽の理論を取り込むべきだ」と明⾔していた。
 マンドリンと邦楽の観点から再考することで、従来の⻄洋⾳楽受容研究に新たな視座を提⽰する。

【一般発表】
14:35-15:10(発表25分、質疑10分)
(2)曽村みずき(九州大学)「薩摩琵琶・錦心流にみる異流派・異種目とのレパートリー共有」

発表要旨
  本発表は、近代日本で展開した薩摩琵琶のうち、明治末期に永田錦心(1885-1927)により創始された錦心流に焦点をあて、先行流派である正派や影響関係がしばしば指摘される能と共有されるレパートリーの詞章内容の比較を通し、錦心流のレパートリー構築における他流派および他種目からの影響を明らかにすることを目的とする。錦心流の琵琶歌本『薩調四絃愛吟集』の収録内容にもとづき、正派および能作品との詞章の異同を調査し、錦心流のレパートリー化に伴う詞章の改訂の実態を分析する。さらに、錦心流関係者による楽曲解説や演奏指南等の記述を検討し、錦心流での既存曲の演奏において先行流派とどのように差異化が図られたのか、また新作曲を中心にいかにして能の要素を摂取しようとしたかを考察する。

15:15-15:50(発表25分、質疑10分)
(3)小川将也(九州大学)「「ヴィッセンシャフトリッヒ」に考える――R. ヴァラシェクと音楽研究の論理」

発表要旨
   ヴィーンの音楽研究者R. ヴァラシェクは、「自然科学」としての美学を掲げ、人間の音楽能力の解明に取り組んだ。われわれの目には彼の業績は同時代のドイツ語圏における心理学的美学の台頭と連動した〈科学的 wissenschaftlich〉な音楽研究のように映るが、しかし、彼のテクストには、数式やグラフは見当たらずひたすら地の文と引用が続く。
 本発表は、ヴァラシェクの主著『原始音楽』(英語版、1893年)および彼自身によるその独訳版『音芸術のはじめ』(1903年)のうち音組織を論じる第IV章を主たる考察対象に、ある研究が〈科学的〉であることの条件を歴史的文脈の中で問い直す。具体的には、英語版からドイツ語版に至るヴァラシェクの主張の変化を跡付け、正しい推論にこそ〈科学的〉との評価を要求する彼の賭けがあることを明らかにする。

16:05-16:40(発表25分、質疑10分、オンライン)
(4)上野正章「「大人のピアノ」における書物を通じてピアノの演奏を学習するメカニズムについて」

発表要旨
    昭和期末頃から生じた「大人のピアノ」――大人から始めるピアノ演奏の楽しみは、静かなブームを呼び、全国的に広まって、今やだれもが認める音楽趣味の一つになった。しかし、目標や背景の異なる大人にピアノを教えることは容易い仕事ではない。大人達はどのようにしてピアノ演奏を習ったのだろうか。注目したいのは、1990年前後から出版点数の増加が認められるピアノの参考書や独習書である。洋楽受容の議論では常に対面教授が前提とされてきたが、書物によって構成される学習環境も視野に入れて音楽の普及を考える必要がある。初学者の理解を助けるために試みられた記譜法の拡張に着目し、書物を通じてピアノの演奏を学習するメカニズムを明らかにしたい。

16:45-17:20(発表25分、質疑10分)
(5)篠原盛慶「田中正平の13鍵式純正オルガネット――特設鍵の採用理由の明確化」

発表要旨
 本発表では、物理学者・田中正平(1862-1945)が創案した13鍵式純正オルガネットにおける特設鍵の採用理由を、西洋音楽及び日本音楽双方の観点から考察する。西洋音楽演奏における必要性は限定的であり、運指上の課題も伴う特設鍵が、田中考案の日本古来の音階を土台にした純正律に基づく音階の演奏時、正格終止における不協和5度の発生を回避しつつ、通常鍵盤の運指と同様の運指で演奏可能であることを実証的に明らかにした。本研究の知見は、13鍵式純正オルガネットが田中提唱の日本和声に基づき改変された楽器であることを示唆し、彼の日本音楽研究における理論の応用と実践の一側面を解明するものである。