西日本支部第57回例会(東洋音楽学会との合同例会)

※ 終了しました。

日時:7月15日(土)14:00~16:30頃 (Zoomによるオンライン開催)

司会:藤田隆則(東洋音楽学会/京都市立芸術大学)、池上健一郎(日本音楽学会/京都市立芸術大学)

【プログラム】

14:05~14:45(司会:藤田隆則)

(1)荒野 愛子(神戸女子大学博士後期課程)[日本音楽学会西日本支部]

修士論文発表

「能の段構成に見るさまざまな謡 ――「野宮」を例に」

発表要旨
能は、謡・楽器・舞によって構成される音楽劇である。その構造は、段・小段・節・句というような大小さまざまな単位で見ることができ、それぞれが型の組み合わせで成り立つ。能の最も重要な要素である謡も、リズムや節にある規則をもって作られている。では、型の組み合わせだけで曲ごとにどのように変化をつけるのだろうか。作者による創作意図はどのようなところに見えるのだろうか。修士論文では、そのような問いから、小段「クセ」の分析を中心に行なった。また、段を構成する小段の組み合わせ方、作品の中での小段の役割を明らかにするため、能《野宮》を取り上げ、作品分析を行なった。そこからわかったことは、型の踏襲とその運用の仕方に作者独自の工夫があることだった。本発表では、《野宮》に見える音楽的特徴を紹介し、全体の構成や歌詞の内容にも触れ、謡の作曲面についての考察を述べる。

14:55~15:35(司会:藤田隆則)

(2)盛口 和子(大阪大学人間科学研究科)[東洋音楽学会]

修士論文発表

「学校教育科において「創造性」はどのように捉えられてきたか

――「国民音楽」創造を目指す井上武士の音楽教育論を中心に」

発表要旨
本論では、現在の学校音楽科のカリキュラムの特徴である「知識・技能」の体系的な内容を、戦中の国民学校「芸能音楽科」教科書編纂者のひとりである井上武士(1894-1974)の音楽教育論にまで遡って再検討し、その習得を目指す学習の意義を問うことを目指した。その中で、学校音楽教育の目的が、〈日本国民としてのアイデンティティの形成〉から、〈「音楽美」による人間形成〉を経て、〈集団で音楽美を生み出すために自己規制ができる人間の形成〉へと変遷していく過程をたどった。これによって学校教育実践の場でしばしば直面する、なぜ近代西洋音楽由来の「知識・技能」なのか、なぜ「美しさ」を追求することをすべての子どもたちに課するのか、なぜ合奏・合唱が表現活動の中心を占めるのか等の問題を歴史的背景から見つめ直すことができ、それぞれが異なった生得的・文化的身体をもつ子どもたちの「創造性」に着目した音楽教育への示唆を得た。

15:45~16:25(司会:池上健一郎)

(3)中原 佑介(人文学研究センター音楽研究所 バルトーク・アーカイヴ)[日本音楽学会西日本支部]

研究発表

「バルトーク・ベーラの1926年のピアノ作品群における自筆資料の歴史的状態の再構築」

発表要旨
現在バーゼルのパウル・ザッハー財団に所蔵されているバルトーク・ベーラの自筆資料の大半は作品ごとに整理分類されており、研究者は望んだ資料に容易にアクセスすることができる。ただし、これらの分類はニューヨークの旧バルトーク・アーカイヴによる恣意的な分類を踏襲しており、作曲家の手を離れた時の歴史的な状態を反映している訳ではない。従って、本来1つにまとめられていた自筆譜が順序を入れ替えた上で別々のグループに分類されることが生じており、個々の作品の成立史および作品間の関連が不明確になっているケースが多々存在する。本発表では、そのうち最も複雑な例と考えられる1926年のピアノ作品群を例に、自筆資料の歴史的な状態をどのように再構築できるのかを論じる。