西日本支部第56回例会

※ 終了しました。

日時:6月10日(土)14:00 (16:30終了予定)(対面とオンラインのハイブリッド開催)

会場:大阪大学中之島芸術センター 「スタジオ」

 〒530-0005 大阪市北区中之島4丁目3-53

 大阪大学中之島センター3階「アートスクエア」内 (地図を添付します)

司会:筒井はる香(同志社女子大学)

【プログラム】

14:00-14:40

(1)田久保 友妃(京都市立芸術大学大学院音楽研究科) 

修士論文発表

「17世紀ドレスデン楽派の無伴奏ヴァイオリン曲における独奏書法の発展

――J. P. v. ヴェストホフ(1656〜1705)の《6つの組曲》(1696)を中心に――」

発表要旨
本発表では、無伴奏ヴァイオリン独奏曲の最初期の作品であるヨハン・パウル・フォン・ヴェストホフ(1656〜1705)の《6つの組曲》(1696)に注目し、J. S. バッハ(1685〜1750)の《6つのソナタとパルティータ》(1720以前)に至るヴァイオリン独奏書法や演奏技術の発展を、特に演奏実践の観点から再検証する。ヴァイオリンで無伴奏を実現する際の多声化手法として重要な要素である重音奏法は、ヴェストホフ以前の作品では和音の種類が限定されていた。そのため、調の選択や旋律を受け持つ声部は限定された。しかしヴェストホフの作品には、バッハの無伴奏作品に見られる和音がすでに現れており、無伴奏ヴァイオリンの多声的書法の可能性を拡大したことが明らかになった。本発表では17世紀ドレスデン楽派の音楽家が用いた技法とその相互関係も比較要素として扱い、その上で改めてヴェストホフの作品が無伴奏ヴァイオリン曲史上重要な作品であることを提示したい。

14:50-15:30

(2)室之園 直己(大阪公立大学大学院文学研究科)

修士論文発表

「Gypsy Punkにおける“Gypsy”と“Cabaret”の結びつき

――ポピュラー音楽におけるジプシー表象に関する一考察――」

発表要旨
発表者は、修士論文においてジプシー音楽とパンク・ロックを融合させた音楽性を持つGypsy Punkバンドの多くがキャバレーの要素を取り入れていることに注目し、Gypsy Punkとキャバレーの間にどのような親和性が存在するのかを分析した。本発表ではその要約を発表する。1980年代以降、ジプシー音楽は欧米で急速に流行することとなり、1990年代にはアメリカを中心にGypsy Punkが勃興した。彼らは欧米の観客に広く受け入れられるようにするため、音楽的な側面だけでなく、ジプシーの持つエキゾチックな「表象」を前面に押し出す傾向にあった。そこで本発表ではGypsy Punkとキャバレーが融合する背景に、ジプシーとキャバレー、それぞれが持つ「表象」における親和性が重要な役割を果たしていると仮定し考察を進める。本発表は、現代の欧米のポピュラー音楽においてジプシーという存在が与える影響などについて考える一助となることを目指す。

15:40-16:20

(3)張 佳能(大阪大学)

博士論文発表

「さすらう大陸歌謡 ――昭和期の大衆音楽に関する貫戦史的研究――」

発表要旨
本発表は発表者の「大陸歌謡」をテーマとする博士論文についての報告である。中国大陸について歌った日本の大衆音楽、すなわち「大陸歌謡」と呼ばれるジャンルは多くの場合、戦時中の日本という時期的にも地理的にも限定的な文脈で語られている。本博士論文は戦前・戦中・戦後を通して大陸歌謡の継承と変容に着目し、戦前から戦後にかけて東アジアを中心とする諸文化圏の中で越境する諸事例に焦点を当てることにより、「レコード会社専属制度」やアマチュアの音楽実践などの昭和期の音楽文化から影響を受けてきた、こんにちまでの大陸歌謡の歴史的展開を明らかにする。さらに大陸歌謡の連続性を中心に考察した本研究を通して、戦前から戦後初期までを一つの連続性のある時期と見なす「貫戦期 Transwar」という視座から昭和期の大衆音楽を捉え直す新たな可能性を示す。